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リレーエッセイ〜看護のすきま〜【 vol.8 あんず】

「メディケアナース」は、看護師として働くひとの休日に“のんびり”を届けるウェブマガジンです。私達が考える“のんびり”とは「私を楽しみ、私と語らう時間」。連載企画「リレーエッセイ〜看護のすきま〜」は、看護師として働くひとによる“背伸びしない”エッセイ集です。人と人のすきまを紡ぐ看護師が「休日の私」をテーマにエッセイを綴ります。

あんず

「看護師辞めたい」が口癖だった私は看護師を辞めた。

おっとりで臨機応変な対応が苦手な私には、看護師は向いていなかったみたいで、周りのペースについていけず迷惑をばかりをかけてばかりで。そんな自分の状況に耐えられず「もう私に看護師は無理だ」と思い、急性期病棟をたった1年半で辞めたのだ。

病院を退職すると、寮を出ないといけなくなり実家に帰省した。 実家住みの無職など私の友達には1人もおらず「このままじゃいけない、早く次の仕事を見つけなきゃ」と焦る日々。

けれど、病棟に迷惑ばかりかけてきた私が、看護師として働くのは無理な気がしてハロワークでは“看護師以外”の正社員の求人を必死に探した。看護師の転職サイトには一応登録はしたけれど「看護師はもうしない」と決めていたのだ。 看護師として自分は「終わっている」と本気で思っていたし、自信を喪失していた。

退職後の生活はと言うと、ハローワークで仕事を探す以外の時間はただ無為にのんびりと過ごした。大好きな飼い犬と朝・昼・晩の3回散歩へたっぷり出掛けたり、撮り溜めたドラマの録画を見たり、漫画を読んだり、朝から晩まで眠りこけたり。

そんなある日、散歩へ連れて行く度に必ずうんちをする犬が一度もしなかった。次の日も、その次の日もしなかった。

「毎日快便だったのに便秘かな…。」

犬の調子が不安になり、うんちをしなくなって3日目に「もう使わないから」と押し入れに突っ込んでいた聴診器を引っ張りだし、犬のお腹の音を聴いてみることにした。

聴診器を当てた犬のお腹からは 「グーグー」 と音が聴こえるけれど、1分間に2回ほど。低い音も気になった。犬の腸蠕動音の正常値は知らなかったが少ない気がする。

「この子は便秘なのかな?」

と思い、ネットで犬の腸蠕動音の正常値を調べると1分間に3回から4回が正常値ということなので正常値よりこの犬は腸蠕動音は少ない。これは便秘だ。 思い当たることがあった。 それは、私が実家に帰省して急に散歩の時間が増えたこと。実家に帰る前、この犬は1日1回しか散歩をしていなかったのに、私が実家に帰省してからは朝・昼・晩も散歩しているので明らかに運動量が増えている。

それなのに、水を飲む量は増えていなかった。 だからかも。そう考えて、すぐに水を犬の前に差し出した。すると、犬は喉が渇いていた事を思い出したかのように一緒懸命水を舐め始めた。 大好きな犬を便秘にさせてしまった事が悲しくて悲しくて。「早く治って〜!」とお腹をのの字にマッサージし、温タオルでお腹を温めた。そして、あまり水を飲まない犬に水分補給を促した。

次の日、朝起きて犬と散歩へ行くと犬はしげみにうんちをした。 綺麗なバナナうんちだった。 「看護師辞めたい」が口癖だった、看護師を辞めた私だけど、飼い犬をアセスメントして排便コントロールしていた…!看護、していた…!

飼い犬との散歩を終えて、布団でゴロゴロしながらスマホをいじっているとLINEに転職サイトから看護師の求人が届いていた。 その求人をスクロールして「次はどこの病院がいいかな?」と考えている自分に気づいた。

飼い犬が布団に潜り込んでくっついてきた。犬の体温が温かい。

「また、看護師として働こうかな。」

不安だけど大丈夫な気がする。だって、犬の調子をアセスメントして看護しちゃう位、ちゃんと看護師なんだから。

長く続く休日の中、私はやっと前向きな気持ちになれた。 少し希望が見えてきた。